ジアゾ化滴定の原理と測定のポイント|電位差滴定・分極滴定による芳香族第一級アミンの定量
ジアゾ化滴定は、芳香族第一級アミンの定量に用いられる手法であり、日本薬局方やJIS規格にも採用されています。本記事では、ジアゾ化反応の原理から、電位差滴定・分極滴定による終点検出の方法、臭化カリウム添加や低温管理といった測定精度を左右するポイントまでを解説します。
ジアゾ化滴定の原理
ジアゾ化滴定は、芳香族第一級アミン(Ar-NH2)の定量に用いられる手法です。塩酸酸性下で芳香族第一級アミンに亜硝酸(HNO2)を反応させ、ジアゾニウム塩(Ar-N≡N+Cl–)を生成する反応をジアゾ化といいます。
Ar-NH2 + HNO2 + HCl → Ar-N≡N+Cl- + 2H2O
亜硝酸 1 mol が芳香族第一級アミン 1 mol に相当するため、消費した亜硝酸量から芳香族第一級アミン量を定量できます。
滴定液に亜硝酸ナトリウムを使用する理由
亜硝酸(HNO2)は不安定であるため、そのまま滴定液として使用することはできません。水溶液中で安定な亜硝酸ナトリウム(NaNO2)を滴定液とし、塩酸酸性の試料溶液中において、その場で発生させた亜硝酸をジアゾ化に使用します。
亜硝酸の生成:NaNO2 + HCl → HNO2 + NaCl
一連の反応をまとめると以下の通りです。
Ar-NH2 + NaNO2 + 2HCl → Ar-N≡N+Cl- + NaCl + 2H2O
ジアゾ化滴定は、JIS K 4101(有機中間物一般試験方法)および日本薬局方に採用されています。
終点検出の方法
終点判断には試験紙を用いる方法もありますが、ここでは精度の高い電位差滴定および分極滴定を紹介します。
電位差滴定
指示電極(白金電極)と比較電極(銀-塩化銀電極)を用い、滴定に伴う酸化還元電位の変化を測定します。酸化還元電位 E はネルンストの式で表されます。
E = E0 + RT/(nF) × ln([Ox]/[Red])
| 記号 | 意味 | 値 |
|---|---|---|
| E | 酸化還元電位 | (V) |
| E0 | 標準電極電位 | (V) |
| R | 気体定数 | 8.314 (J·K⁻¹·mol⁻¹) |
| T | 絶対温度 | (K) |
| n | 反応に関与する電子数 | — |
| F | ファラデー定数 | 96485 (C·mol⁻¹) |
| [Ox] | 酸化体の活量(希薄溶液ではモル濃度) | — |
| [Red] | 還元体の活量(希薄溶液ではモル濃度) | — |
ジアゾ化滴定における酸化体は亜硝酸イオン、還元体はジアゾニウムイオンです。当量点付近で両者の濃度比が急激に変化するため、酸化還元電位が大きく変化します。通常は変化率が最大となる変曲点を終点とします。
分極滴定
分極滴定には定電流分極滴定と定電圧分極滴定の2種類があります。いずれも双白金電極(2本の白金線を有する分極滴定用電極)を使用します。
定電流分極滴定
2つの白金電極間に微小な一定電流を流し、その維持に必要な電圧を測定します。当量点以前は酸化還元に寄与する化学種が少ないため高い電圧が必要ですが、当量点直後に過剰の亜硝酸イオンが陰極で還元されることで電圧が急激に低下します。滴定曲線の折れ曲がり部分を終点とします。
定電圧分極滴定
2つの白金電極間に一定の微小電圧を印加し、流れる電流を測定します。当量点直後に過剰の亜硝酸イオンによる還元電流が観測され、電流が急激に上昇します。滴定曲線の折れ曲がり部分を終点とします。
使用電極のまとめ
| 測定方法 | 電極 |
|---|---|
| 電位差滴定 | 指示電極:白金電極 / 比較電極:銀-塩化銀電極(複合電極も使用可) |
| 分極滴定 | 双白金電極 |
滴定装置の設定
ジアゾ化反応は反応速度が遅いため、通常よりもゆっくりとした注入速度が適しています。多くの滴定装置では ΔmV/ΔmL に応じて注入速度が自動変化しますが、一定量を間欠的に注入する設定の方が測定値が安定する場合があります。
| 設定項目 | 推奨値 |
|---|---|
| 1回の注入量 | 0.05〜0.1 mL |
| 注入間の待ち時間 | 5〜15 秒 |
測定手順の例:スルファメチゾールの定量(日本薬局方)
- 試料 0.4 g をビーカーに精密に採取します。
- 濃塩酸 5 mL、純水 50 mL を加えて溶解します。
- 臭化カリウム溶液(3→10)10 mL を加え、15℃以下に冷却します。
- 0.1 mol/L 亜硝酸ナトリウム標準溶液で滴定します。
日本薬局方における「(3→10)」の表記は、溶質 3 g を溶媒に溶かして全量を 10 mL とした溶液を意味します。
測定のポイント
臭化カリウムの添加
臭化カリウム(KBr)はジアゾ化反応の反応速度を促進するために添加します。滴定では、滴定液が被測定物質と速やかに反応することを前提としています。反応が遅いと、滴定液が反応完結前に次々と注入されて過剰滴定となり、大きな誤差が生じます。これは指示薬法・電気的測定法のいずれでも同様です。
冷却の必要性(15℃以下)
滴定は15℃以下の低温で行う必要があります。理由は以下の2点です。
① 亜硝酸の損失防止
亜硝酸は温度が高いと揮発・分解しやすくなります。15℃以下に冷却することでこれをほぼ完全に防止できます。亜硝酸の分解反応を以下に示します。
酸化分解:2HNO2 + O → 2HNO3
還元分解:2HNO2 → H2O + 2NO + O
② ジアゾニウム塩の加水分解の抑制
滴定生成物であるジアゾニウム塩は不安定であり、温度が高いと加水分解してフェノール類と窒素ガスを生成してしまいます。
Ar-N≡N+Cl- + H2O → Ar-OH + N2 + HCl
反応温度を 15℃以下に保つことで加水分解を抑制し、定量的なジアゾ化反応を維持します。