化学分析の実践ノウハウ

低濃度(ppmオーダー)の塩化物イオンを沈殿滴定で測定するポイント【電位差滴定】

yusuke

低濃度(ppmオーダー)の塩化物イオンを測定する場面は、環境分析や品質管理などで少なくありません。
しかし、通常の沈殿滴定の条件のままでは、終点が不明瞭になり、誤差やばらつきが大きくなることがあります。

本記事では、低濃度の塩化物イオンを沈殿滴定(電位差滴定)で測定する際に押さえておきたい実務上のポイントを解説します。


1. 使用する電極の選定

指示電極:銀電極

沈殿滴定による塩化物イオンの測定では、銀電極を指示電極として使用します。

比較電極:ガラス電極がおすすめ

比較電極としては、ガラス電極の使用を推奨します。

ダブルジャンクション型比較電極も使用可能ですが、内筒には塩化カリウム溶液が用いられているため、液絡を通じて被検液へ塩化物イオンが混入するリスクがあります。
微量(ppmオーダー)の測定では、この影響が無視できない場合があります。

ガラス電極を比較電極として使用すれば、被検液への塩化物イオンの混入リスクがなく、低濃度測定に適しています。


2. 塩化銀の溶解度を下げる工夫

塩化物イオン濃度が低い場合、滴定反応によって生成する塩化銀の溶解が無視できません。
これにより、終点が不明瞭になり、誤差の原因となります。

対策:有機溶媒の添加

被検液にエタノールやアセトンなどの有機溶媒を加えることで、塩化銀の溶解度を低下させることができます。

  • 添加量の目安:試料量と同量
    • 例:試料 50 mL + エタノール 50 mL

ただし、試料中の成分が析出する場合は、添加量を調整してください。


3. 試料採取量と滴定液濃度の考え方

終点までに要する滴定量が少なすぎると、精確な測定は困難になります。
最低でも 1 mL 程度の滴定量を確保することが望ましいです。

滴定量を確保する方法

  • 試料採取量を増やす
  • 滴定液の濃度を薄くする

ただし、試料量を無制限に増やしたり、滴定液を過度に薄くすることはできません。
なぜなら、終点付近での電位変化がさらに小さくなり、終点検出が困難になるからです。

実務上の目安

  • 試料採取量:最大 100 mL 程度
    (エタノールなどの有機溶媒を添加する場合は50mL程度)
  • 滴定液濃度:0.005 mol/L 程度が下限の目安

定量可能な濃度の目安

例として、

  • 試料量:50 mL
  • 滴定液:0.005 mol/L 硝酸銀
  • 終点滴定量:1 mL

の場合、試料中の塩化物イオン濃度は 約 4 mg/L(ppm) となります。
このあたりが、沈殿滴定で現実的に定量可能な下限付近の濃度と考えられます。
ただし、実際の測定では試料性状や共存成分が影響しますので、あくまで目安です。


4. 滴定装置の設定

低濃度測定では、終点付近の電位変化が小さくなります。
そのため、滴定条件の設定が必要です。

推奨設定

  • 間欠的な滴定液注入
  • 注入間の待ち時間:5~10 秒程度

または、ΔmV/ΔmL に応じて待ち時間が自動調整される設定でも問題ありません。

終点検出条件については、電位変化や変曲点の傾きが小さくても終点が検出されるよう、検出条件をやや緩めることを検討してください。


5. 標準添加法の活用

標準添加法は、低濃度測定において有効な方法です。

方法の一例

  1. 滴定液:0.005 mol/L 硝酸銀
  2. 同濃度の塩化ナトリウム標準液を準備
  3. 試料採取後、塩化ナトリウム標準液を正確に 1 mL 添加
  4. 硝酸銀で滴定(滴定量 A mL)
  5. 別途、空試験を実施(滴定量 B mL)

A − B(mL) が、試料中の塩化物イオン量に対応します。

A と B の差は、0.5 mL 程度以上確保できることが望ましいです。
添加する標準液の濃度を滴定液と同一にすれば、添加量がそのまま滴定量の上乗せ分となり、条件設定が容易になります。


まとめ

低濃度(ppmオーダー)の塩化物イオンを沈殿滴定で測定する際のポイントは、以下の通りです。

  • 比較電極にはガラス電極を用い、塩化物イオンの混入を防ぐ
  • 有機溶媒を添加し、塩化銀の溶解度を低下させる
  • 滴定量は 0.5 mL 以上を目安に条件を設定する
  • 滴定装置の設定は、終点検出を考慮して調整する
  • 必要に応じて標準添加法を活用する

これらのポイントを押さえることで、低濃度領域に適した条件で測定ができます。


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