【カールフィッシャー法】主な妨害物質と対策
水分測定の標準的な手法であるカールフィッシャー法は、高い精度と信頼性を持つ一方、試料の性状によっては正確な測定が困難になる場合があります。本記事では、測定に影響を与える主な妨害物質の種類とそのメカニズム、および実務で用いられる具体的な対策を解説します。
カールフィッシャー反応
カールフィッシャー試薬の主な成分は、アルコール(ROH)、二酸化硫黄(SO2)、塩基(R’N)の3つです。アルコールは単なる溶媒ではなく、反応に直接関与する重要な成分です。
反応は以下の3段階で進行します。
① 亜硫酸アルキルイオンの生成
ROH + SO2 ⇌ SO3R- + H+
アルコールと二酸化硫黄が反応し、亜硫酸アルキルイオン(SO3R–)が生成します。
② 塩基による中和(平衡の右辺へのシフト)
SO3R- + H+ + R'N → [R'NH]SO3R
塩基が H+ を中和することで平衡が右辺に大きく偏り、反応が促進されます。
③ ヨウ素による酸化(水の消費)
H2O + I2 + [R'NH]SO3R + 2R'N → [R'NH]SO4R + 2[R'NH]I
この反応におけるヨウ素と水のモル比は 1:1 です。したがって、滴定に消費されたヨウ素の物質量から試料の水分量を求めることができます。
主な妨害と対策
① ケトン類・アルデヒド類
ケトン類(R2C=O)およびアルデヒド類(RHC=O)は、試薬中のアルコール(通常はメタノール)とアセタール化反応を起こし、水を生成します。
R2C=O + 2CH3OH → R2C(OCH3)2 + H2O
RHC=O + 2CH3OH → RHC(OCH3)2 + H2O
生成した水がカールフィッシャー反応に使用されるため、測定値にプラスの誤差が生じたり、測定が終了しないといった問題が発生します。
対策
- ケトン類・アルデヒド類用試薬を使用する:メタノールの代わりに反応性の低いアルコールを使用した専用試薬により、副反応を抑制できます。ただし、完全に防止するわけではありません。
- 一度の投入量を少なくする:特に反応性の高いアセトン・シクロヘキサノン(ケトン類)、アセトアルデヒド(アルデヒド類)は、1回あたり0.5 g未満を目安に投入量を制限します。
- 試薬の定期交換:測定値が明らかに高い、または測定が終了しない場合は、副反応を抑制できる許容量に達したと判断し、新しい試薬に交換します。連続測定時も同様に注意が必要です。
ケトン類・アルデヒド類の副反応性は炭素数が少ないほど高くなる傾向があります。
② 酸化性・還元性物質
カールフィッシャー法はヨウ素の消費量を基に水分を定量するため、ヨウ素の生成または消費を引き起こす物質は測定の妨害となります。
酸化性物質(マイナス誤差)
ヨウ化物イオン(I–)を酸化してヨウ素(I2)を生成する物質は、測定値にマイナスの誤差をもたらします。生成した I2 がカールフィッシャー反応に使用されるためです。妨害となる代表例を以下に示します。
- ペルオキシエステル(R-CO-OO-R’)
- ジアシルペルオキシド(R-CO-OO-CO-R’)
- ペルカーボネート(R-O-CO-OO-CO-O-R’)
なお、過酸化水素(H2O2)およびヒドロペルオキシド(ROOH)は、二酸化硫黄と選択的に反応します。そのため、試薬中に二酸化硫黄が十分に存在する条件下では、測定の妨害になりません。
還元性物質(プラス誤差)
アスコルビン酸(C6H8O6)などの還元剤は、測定に使用されるべきヨウ素を消費するため、測定値にプラスの誤差を生じます。
C6H8O6 + I2 → C6H6O6 + 2HI
対策
ヨウ素の生成・消費を引き起こす物質を含む試料は、直接フラスコに投入する方法は基本的に採用できません。これらの物質が不揮発性の場合は、気化法を用いて測定します。加熱温度などの測定条件は試料の性状に応じて設定する必要があります。
気化法は以下の記事で詳しく紹介しています。
カールフィッシャー法「気化法」を解説|温度設定や逆流防止のコツ
③ 酸性・塩基性物質
カールフィッシャー反応に適した pH は 5〜7 です。試薬の緩衝能を超える強酸性または強塩基性の試料を投入すると、pH がこの範囲を外れ、反応速度の低下や終点の不明瞭化を招きます。
対策:中和剤の添加
| 試料の性状 | 中和剤 | 添加量の目安 |
|---|---|---|
| 酸性試料 | イミダゾール | 脱水溶剤・陽極液 50 mL につき 5〜10 g |
| 塩基性試料 | サリチル酸 | 脱水溶剤・陽極液 50 mL につき 5〜10 g |
中和剤を添加した場合、中和当量に達するまで連続して測定を続けることができます。なお、中和剤自体に水分が含まれるため、中和剤の添加後に予備滴定を行ってから、試料の測定を行います。
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