化学分析の実践ノウハウ

沈殿滴定における誤差・ばらつきの原因と対策【電位差滴定】

yusuke

主な沈殿滴定の種類

代表的な沈殿滴定には、次のようなものがあります。

  • 硝酸銀標準溶液を用いるハロゲン化物イオン(Cl⁻、Br⁻、I⁻)の定量
  • 塩化ナトリウム標準溶液を用いる銀イオンの定量
  • チオシアン酸塩標準溶液を用いる銀イオンの定量

本記事では、これらの沈殿滴定において生じやすい誤差・ばらつきの原因とその対策について解説します。


電位差滴定で使用する電極

誤差要因の前に、使用する電極について確認します。

  • 指示電極:銀電極
  • 比較電極:ダブルジャンクション型比較電極

内部液には、塩化物イオンを含まない溶液を選ぶ必要があります。
例:1 mol/L 硝酸カリウム水溶液

指示電極と比較電極が一体化した複合電極も使用可能です。


誤差・ばらつきの原因と対策

❶ 銀電極表面の状態

銀電極の表面が汚れていると、感度低下や応答速度の低下を招きます。

主な問題点

  • 表面の汚れ
  • 黒ずみ・酸化被膜
  • 金属光沢の消失

対策

  • 純水洗浄 → ペーパーウェスで拭き取り
  • 付属の専用研磨紙で研磨(メーカー推奨法に従う)
  • 市販の銀磨き剤(シルバーポリッシュ)も使用可
  • 研磨後はアルコールや中性洗剤で洗浄し、研磨剤を完全除去
  • 接合部に強い力をかけない(破損防止)

※磨きすぎには注意。


❷ 装置の設定(滴定スピード)不適切

沈殿滴定は反応速度が遅い傾向があります。

滴定スピードが速すぎると反応が追いつかず、

  • 終点検出のずれ
  • 誤差・ばらつき増大

を引き起こします。

対策

滴定スピードを現在より遅く設定し、反応速度とのバランスをとる。
適切な設定についてはメーカーに確認することも大事です。


❸ 電極への沈殿付着・液絡の詰まり

特に高濃度試料で発生しやすい問題です。

  • 沈殿が電極表面に付着
  • 液絡が詰まる
  • 電位が不安定になる

対策

沈殿の分散剤としてツィーン20溶液を1 mL添加し、滴定する。

ツィーン20は非イオン性界面活性剤の一種で、生成した沈殿の凝集を抑制し、分散させる効果があります。

ツィーン20溶液の調製

ツィーン20を1〜2 g量り取り、水100 mLを加えて溶解します。


❹ 凝集した沈殿へのイオン吸着

生成した沈殿が凝集すると、測定対象イオンが吸着し、
当量点より手前で終点が検出されることがあります。

これも特に高濃度条件で発生しやすいです。

対策

❸と同様に、ツィーン20溶液を1 mL添加


❺ pHの影響

pH 10.5以上では、
銀イオンが水酸化物イオンと反応して誤差が生じます。

対策

アルカリ性の場合は、希硝酸で酸性側へ調整


❻ 共存成分の影響

硝酸銀を滴定液とする場合、銀イオンと沈殿をつくる成分が共存すると誤差になります。

例:

  • Cl⁻
  • Br⁻
  • I⁻
  • CN⁻
  • SCN⁻

試料組成の確認は必須です。


❼ 滴定液のファクターが正しくない

滴定液のファクターが正しくないと、測定値に誤差が生じます。

ファクターに疑義がある場合は、標準物質を用いて標定を行ってください。

滴定液標準物質
硝酸銀塩化ナトリウム
塩化ナトリウム硝酸銀標準液
チオシアン酸塩硝酸銀標準液

注意

塩化ナトリウムは容量分析用標準物質を使用し、
認証書記載の方法で乾燥させてから使用してください。


まとめ

沈殿滴定の誤差・ばらつきは、

  • 電極の状態
  • 装置の設定(主に滴定スピード)
  • 沈殿の影響
  • pH
  • 共存成分
  • 滴定液の標定

といった要因によって発生します

特に多いのは、

  • 電極表面状態の悪化

です。

一つずつ切り分けて対策することが、精確性向上の近道です。





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