化学分析の実践ノウハウ

非イオン性(ノニオン)界面活性剤の測定【電位差滴定】

yusuke

非イオン性(ノニオン)界面活性剤は、洗浄剤、医薬品、化粧品、工業製品など幅広い分野で使用されています。本記事では、電位差滴定による非イオン性界面活性剤の測定方法について、原理から実際の測定手順、計算例までを解説します。


1. 非イオン性(ノニオン)界面活性剤の種類

非イオン性界面活性剤は、親水基の構造によって主に以下の2種類に大別されます。

● ポリエチレングリコール型

  • 親水基:ポリオキシエチレン鎖
    -(CH₂CH₂O)ₙ–

● 多価アルコール型

  • 親水基:ヒドロキシ基(–OH)

電位差滴定による定量が可能なのは、ポリエチレングリコール型に限られます。
多価アルコール型は本手法では測定できません。


2. 測定原理

陽イオン性界面活性剤と陰イオン性界面活性剤は、互いに反応して沈殿を形成するため、その反応を利用して滴定が可能です。一方、非イオン性界面活性剤は水に溶解しても電離せず(イオンにならない)、そのままでは滴定できません

しかし、ポリエチレングリコール型の非イオン性界面活性剤は、バリウムイオン(Ba²⁺)を取り込むことで、陽イオンとして振る舞います。
この状態にすることで、陰イオン性の滴定液を用いた電位差滴定が可能になります。


3. 使用する電極

● 指示電極

  • イオン性界面活性剤に応答するイオン選択性電極(界面活性剤電極)
  • 非イオン性界面活性剤測定に対応した専用電極の使用を推奨

● 比較電極

  • ダブルジャンクション型比較電極

● 内部液

  • 1〜3 mol/L 塩化ナトリウム水溶液

※ 被検液へのカリウムイオンの混入は誤差要因となるため、塩化カリウム水溶液は使用不可です。
カリウムイオンは、滴定液を消費するためです。


4. 滴定液

使用する滴定液

  • テトラフェニルホウ酸ナトリウム溶液
  • 一般的な濃度:0.01 mol/L

テトラフェニルホウ酸イオンは水中で不安定で、特に酸性条件下で分解しやすいため、安定化処理を施した調製方法を推奨します。

0.01mol/L テトラフェニルホウ酸ナトリウム溶液の調製方法

  1. テトラフェニルホウ酸ナトリウム 3.422 g をビーカーに採取し、純水100 mLを加えて溶解する。
  2. 別のビーカーにポリビニルアルコール 10 g を採取し、純水300 mLを加える。
  3. 撹拌しながら穏やかに加熱して溶解する。
  4. 冷却後、両溶液を1 Lメスフラスコに移す。
  5. pH10緩衝液 10 mL を加える。
  6. 純水で標線まで定容する。

注意点

  • 加熱時は必ず撹拌しながら穏やかに加熱してください。
    撹拌不足だと、ポリビニルアルコールがビーカー内壁に固着します。

備考

  • ポリビニルアルコール:テトラフェニルホウ酸イオンの安定剤
  • pH10緩衝液:酸性条件での分解抑制

pH10緩衝液の調製方法

  1. ホウ酸 1.24 g を純水に溶解
  2. 水酸化ナトリウム 0.4 g を純水に溶解
  3. 両溶液を100 mLメスフラスコに移し、純水で定容

5. 滴定装置の設定

滴定スピードの設定

多くの滴定装置では ΔmV/ΔmL に応じて自動的にスピードが変化する設定がデフォルトです。
しかし安定した結果を得るには、一定量を間欠的に注入する設定がおすすめです。

  • 注入量:0.05~0.1 mL
  • 注入間の待ち時間:5~10 秒

終点検出の設定

  • 滴定反応の当量点 = 滴定曲線の変曲点
  • 変曲点を終点として自動検出する設定にします

6. 滴定液の標定と試料の測定

6-1. 標定に用いる標準物質

非イオン性(ノニオン)界面活性剤の測定では、
ポリオキシエチレン鎖の長さ(EO数)によって、滴定反応の化学量論比が変化します。

そのため、

  • 陽イオン性・陰イオン性界面活性剤のように
    「1 mol 対 1 mol」で単純に計算することができない
  • 一般的な一次標準物質を用いた標定が成立しない

という特徴があります。

この問題を解決するため、
測定対象と同一の非イオン性界面活性剤を標準物質として用い、
滴定液 1 mL が何 mg の界面活性剤に相当するか(換算係数)を求めます。

6-2. 標定の基本的な考え方

標定によって求めるのは、次の係数です。

滴定液 1 mL = 非イオン性界面活性剤 ○○ mg

この係数を用いることで、試料を測定したときの滴定量を濃度に換算することができます。

6-3. 標定操作の具体例

① 標準液の調製

  • ここでは、試料中のTriton X-100の濃度測定を例に考える
  • 試薬として市販されている Triton X-100 を純品とみなし、標定の標準物質とする
  • Triton X-100を純水に溶解し、標準液を調製する
    (例:調製濃度1.023 g/L )

Triton X-100とは、非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテルの商品名です。

② 滴定液の標定の一例

  1. 標準液 10.0 mL を正確にビーカーに採取
  2. 純水 50 mL を加える
  3. 1 mol/L 塩化バリウム水溶液 3 mL を添加
    • 非イオン性界面活性剤を陽イオン化するため
  4. 0.01 mol/L テトラフェニルホウ酸ナトリウム溶液 で滴定
  5. 終点滴定量の例:3.0340 mL

③ 換算係数の算出

  • 標準液 10 mL に含まれる Triton X-100 量
    → 1.023 g/L × 0.010 L = 0.01023 g

消費した滴定液の量は、3.0340 mL であったため、

0.01023 g ÷ 3.0340 mL = 0.003372 g/mL

つまり、

滴定液 1 mL = Triton X-100 3.372 mg

この値が**換算係数(mg/mL)**です。

6-4. 試料の測定方法

④ 試料の測定方法の一例

  1. 試料 5.0 mL を正確にビーカーに採取
  2. 純水 50 mL を加える
  3. 1 mol/L 塩化バリウム水溶液 3 mL を添加
  4. 0.01mol/L テトラフェニルホウ酸ナトリウム溶液で滴定
  5. 滴定量の例:2.3450 mL

※ 標定時と同一条件にすることが重要です。

6-5. 濃度計算

計算は以下の式で行います。

試料濃度(g/L)
= 滴定量(mL)× 換算係数(mg/mL)÷ 試料量(mL)

計算例

2.3450 × 3.372 ÷ 5 = 1.58 g/L

したがって、今回の例における試料中の Triton X-100 濃度は

1.58 g/L

となります。

6-6. 注意点・測定精度を向上させるポイント

  • 標定と試料測定は必ず同一条件で行う
    • 被検液のバリウムイオンの濃度
    • pH条件
  • 測定対象が変われば、必ず再標定する
    (EO数が異なると換算係数が変わる)
  • 滴定液は不安定で分解しやすいため、
    定期的に標定を行い、係数の変化を確認する

pH 条件に関して


標定時と試料測定時で被検液の pH が大きく異なる場合
標定によって求めた 換算係数が変化してしまう可能性 があります。

これは、非イオン性界面活性剤とバリウムイオンの錯形成挙動が、pHの影響を受ける可能性があるためです。

そのため、pHが大きく異なる場合は、

  • 緩衝液を添加し
  • pH 3~9 程度の範囲内で
  • 標定と試料測定を同じ pH 条件で行う

ことを推奨します。


7. 本法が適用できないケース

本法が適用できないケースとしては、

  • その他の界面活性剤が共存している
  • 高濃度のカリウムイオンを含む
  • ポリオキシエチレン鎖が長すぎる or 短すぎる
  • 分子内に複数のポリオキシエチレン鎖をもつ

などが考えられます。

まとめ

ポリエチレングリコール型の非イオン性界面活性剤は、バリウムイオンとの錯形成を利用することで、電位差滴定による定量が可能です。この測定に対応した電極の選定、安定化処理した滴定液の調製、適切な条件での標定を行うことで、正確な測定が実現できます。非イオン性界面活性剤の定量が必要な場面では、有効な分析手法の一つです。


関連記事


Xからの読者コメントをお待ちしています。
ブログ更新の励みになります!
記事URLをコピーしました