非水滴定による混酸の濃度分析|硝酸・フッ化水素酸・酢酸の分別定量法
複数の酸が混在する試料の各成分を個別に定量したい場合、水溶液中での中和滴定では困難な場合があります。本記事では、溶媒の性質を利用して酸の強さを「分ける」ことで、測定を可能にする非水滴定について解説します。
❶ なぜ非水滴定が必要なのか?
複数の酸が混在する試料を塩基で滴定する場合、各酸の終点を個別に検出できるかどうかは、共存する酸同士のpKaの差と溶媒の性質によって決まります。
終点を分離するための条件
終点を精度よく分離して検出するには、共存する酸同士のpKaに少なくとも2〜3以上の差(好ましくはそれ以上)が必要です。差が小さいと終点が重なって判別できなくなります。これはどんな溶媒を使っても変わらない基本的な条件です。
水の水平化効果
水はプロトン受容性が高い溶媒であるため、pKa < 0 の強酸は水中で完全に解離し、すべてH₃O⁺に変換されます。つまり、水中における強酸の強さは、いずれもH₃O⁺にそろえられます。これを**水の水平化効果**と呼びます。
次の記事も参考にしてください。
水の水平化効果とは
強酸はみなH₃O⁺に変換されるため、複数の強酸が共存していても水溶液中では区別できず、滴定曲線上の終点は1つにまとまってしまいます。
さらに、強酸とpKa 0〜4程度の酸が共存する場合も、水平化効果の影響で終点の分離が難しくなります。
例えば、硫酸のpKaは、
1段目:H2SO4 → H+ + HSO4–(pKa1:-3 〜 -8)
2段目:HSO4− → H+ + SO42−(pKa2:約2)
ですが、水溶液での滴定では1つの終点しか得られません。
一方、条件によりますが、非水溶媒中では、2つの終点が得られます。
非水溶媒の適用
メタノールなどの有機溶媒は、水よりもプロトン受容性が低く、誘電率も異なります。そのため、水中では完全解離する強酸も非水溶媒中では完全には解離せず、酸の強さに差が見られるようになります。
結果として、各酸が逐次的に中和されることで、階段状の滴定曲線が得られます。
- 水の場合: 酸同士の強さに差が見られず、終点が重なって1つになる。
- 非水溶媒の場合: 酸同士の強さに差が見られ、階段状の滴定曲線が得られる。
❷ 使用電極
- 指示電極: ガラス電極
- 比較電極: ダブルジャンクション型比較電極
- 内部液: 1 mol/L 塩化リチウムエタノール溶液
アルコールなどを溶媒とする場合、塩化カリウム水溶液は内部液として推奨されません。有機溶媒に対する溶解度が低いため析出し、液絡を塞いでしまう恐れがあるためです。
❸ 実践例:混酸(硝酸・フッ化水素酸・酢酸)の分析
表面処理剤やエッチング液で使用される「硝酸・フッ化水素酸・酢酸」の3種混合液を例に挙げます。
分析手順
- 試料 5 mL をビーカーに採取する。
- メタノール 100 mL を加える。
- 0.1 mol/L 水酸化ナトリウムメタノール溶液で滴定する。
- 滴定曲線の変曲点を終点とする。
滴定曲線の解釈
pKa の小さい(酸性の強い)順に終点が現れます。
| 終点 | 対応する反応 | 濃度計算に使用する滴定量 |
| 第1終点 (V1) | 硝酸の中和 | V1 (mL) |
| 第2終点 (V2) | フッ化水素酸の中和 | V2−V1 (mL) |
| 第3終点 (V3) | 酢酸の中和 | V3−V2 (mL) |
まとめ
非水滴定は、水溶液系では困難な「酸の分別定量」を可能にする手法です。
- pKa の差によって終点を分離させる。
- 各酸は**pKaの小さい順(強い酸から)**に終点が現れる
- それぞれの滴定量から、各成分の濃度を求める。